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突然、教室の扉が開き、一人の男性が入ってきた。一斉に集まった生徒たちの注目にひるむこともなく、その黒衣の男は堂々と教卓の前に立つ。
「諸君はまだこの学園に入学したばかりで、わからないことも多々あるでしょう。そこで、今から僕がちょっとだけ学園のことを教えて差し上げます。」
ニヤリと笑うその男にアヤノは見覚えがあった。全身を覆う真っ黒な衣装。長い髪に半分隠された顔に浮かぶ怪しげな雰囲気。そう、そいつは昨日の意味深発言男だった。
「その前にまずは自己紹介をしましょうか。僕はヨシノと申します。この学園のナビゲーターか何かだと思ってください。」
ヨシノに対して生徒たちはあからさまな不審者を見るような目を向けていたが、一応は学園の関係者であるらしいとわかり、警戒を緩める。それでも大半の者は訝しげに眉をひそめたままだったが。
「まずはこの学園の長い歴史を語りたいところですが残念なことにあまりにも長すぎるので限られた時間では語りつくせません。よって今回は省略します。詳しくは生徒手帳を見てください。」
本当に残念そうにヨシノは早口でそう言った。そんなぞんざいな説明に本当にこの人の言うことは正しいのだろうかとアヤノは首をかしげた。
「さて、これから皆さんは入学式を経て、この学園の一員となります。その前に注意していただきたいのですが、この七塚学園は完全実力主義の学校です。それは生徒に限らず教師にも言えること。つまり皆さんの態度如何でこちらの可愛い遠山先生の評価も変わってきます。」
そこでヨシノはいったん言葉を切り、生徒たちの反応を見る。クラス中がざわざわとしている。特に男子生徒たちの異様な意気込みが急に感じられるようになった。
「入学式ではクラスの代表者に入学に際してのクラス目標を発表してもらうのが我が七塚学園の伝統となっています。」
妙な盛り上がりを見せた生徒たちにニヤリと笑って、ヨシノがそんな言葉をはなつ。途端に色めきたった男子たちが諸手を挙げてクラス代表に名乗りをあげはじめる。
クラスの男子ほぼ全員が競うように立候補する中、ハルは一人おとなしく窓の外を眺めている。そんなハルにアヤノはそっと声をかけた。
「ねぇ…ハルは立候補しないの?」
「………。」
「…ハル?」
「…zzz」
先ほどから妙におとなしいと思ったら、ハルは見事に眠っていた。学校が始まった初日から居眠りとはたいした度胸である。
「静粛に!諸君の意気込みは良くわかりました。」
アヤノが呆れてハルを見ていると、ヨシノが良く通る声でクラスを鎮めた。そしてコホンと咳払いをすると、またニヤリと笑って教室中を見渡した。
「しかし、これほどの大人数から一人を選ぶにはもうあまり時間がありません。そこで…。」
ヨシノは一旦言葉を切り、服のポケットからごそごそと何かを取り出した。
「この、ヨシノさん特製アミダくじで決めましょう!」
それは一枚の紙だった。A3サイズのコピー用紙にいくつもの線がひかれている。そして長いほうの一辺が折り返されて、何が書いてあるか見えないようになっている。一番上には「1−C専用アミダ」と書かれていた。最初からやるつもりだったようだ。
「ちゃんと全員分の線があります。出席番号順に自分の名前を書いていってください。」
ヨシノは説明が終わるやいなや、生徒たちに紙を回していく。くじの公平性というのははなはだ怪しいものだが、みんな特に疑問も持たず名前を記入していった。
ちなみにハルはアヤノがどんなに必死に(かつこっそり)起こしても起きなかったので、仕方なくアヤノがハルの分も名前を書いておいた。