挿話・後書き





【挿話 面倒でも、楽しき日々へと】


「――それで早速じゃが、ハルナ」
「ん?」
話は終わったと油断していたところで言われ、榛名はきょとんとしてクリスを見る。少女は人形の如き無表情で言い放った。

「私が学校に付いていく理由とお前の家に滞在する理由を適当に考えておけ」
「………は?」
「近くにおらんと意味がないからな。まさか野宿しろとも言うまい?…では、頼んだぞ」
ぐっと親指を突き立て、何が楽しいのかクリスは浮き足立った様子で校門へ歩き出した。榛名は数秒、呆然としていたが……

「(……っ、めんどくせぇーーー!!!)」

心中で叫び、その場にガクリと膝をつく。
大抵の人には不良と目されている自分が、小学3、4年くらいの少女を家に連れ込み、高校でも連れ歩く理由……そんなもの、浮かぶはずがない。
突然崩れ落ちるように膝をついた為か、後ろから誰かが駆け寄ってきた。

「ど、どうしたんだ?具合でも悪いのか」
「あぁ?…お前……一ノ瀬か」
清潔感のある黒い短髪に、きっちり着込んだ制服。知的ながらも気の強さを垣間見せる顔つきをした少年を、今までとは違う気持ちで見る。
『け―365番、イチノセユウヤ』。榛名が死ぬ事で無事延命した者。あの後も教室で見かけはしたが、話す事などなかった。

一ノ瀬は少し驚いた顔をして、
「僕の名前覚えてたのか…って、それより榛名、大丈夫か?」
「…悪い。ただの立ちくらみだ」
「そうか。なら良かった」
殆ど話した事のないただのクラスメイトに対し、上辺ではなく心から安堵して笑う。優等生と呼ばれる彼からすれば、しょっちゅう授業をサボり他校と喧嘩もする自分など、嫌悪の対象にすらなるもんだと思うのだが。
「(…そういう奴だから、寿命が延びたんだな)」
サルベージの所の隊員が善行をチェックし、アリアの所の隊員が寿命を管理する。自分のせいで一ノ瀬が死んでしまうのではと泣いていた隊員は、延命を知った今どうしているだろうか。
そう考えて、榛名はじろりと一ノ瀬を見やった。

「……お前、ちゃんと生きろよ。見守ってくれてる奴が沢山いんだから」
「…?あ、あぁ……」
「……(わかるわけねぇのに、馬鹿な事言ったな)」
今度は自分に向けたため息を心中でついて、不機嫌な顔の榛名は校門へ歩き出す。ぽかんとしていた一ノ瀬は一瞬遅れてその後を追った。

「待てよ榛名!別に悪いわけじゃないが、君は何で僕の祖母が死んだ事を知ってるんだ?」
「はぁ?知らねぇよんな事。何の勘違いだ」
「あ、あのね君。ここは高校だから、小学校は向こうだから――」
「私は小学校になど行かん。良いから通すのじゃ、早く中を見たい」
「コラ何してんだ、勝手に風紀の連中とモメてんじゃ――」
「ひぃぃ!榛名純真の妹!?どっ、どうぞお通り下さい!!」
「わかれば良いのじゃ、わかれば」
「駄目だろうが!!てめぇらも何道譲ってんだ!」
「ぎゃぁああ!鬼ー!!」
「おい榛名、風紀委員が怯えてるぞ。ひとまず落ち着いてくれ」
「そいつらが勝手に怯えてんだよ!つか問題なのは向こうだろ、あんなカッコでよく堂々と――」
「あのカンガルーは動物園から脱走したに違いないよな。この場合警察を呼ぶべきだろうか、それとも追いかけて先に捕まえておくべきか」
「お前の事頭良いと思ってた俺がバカだった。後姿だからって本物と思い込むお前もバカだ」
「?言ってる意味がよく……」
「ハルナ、何をしておる。青春は待ってくれんぞ」
「ん?榛名、あれ女の子か?」
「委員長ー!誰か委員長呼んでこい!榛名純真がとうとう我らに敵対をー!!」

「………はぁ」

収拾つかなそうな騒がしさの中、やってられないとばかりにため息をつく。
ひとまずは風紀委員を無視してクリスの回収だろうか。一ノ瀬が勝手についてきそうな気もしたが、ともかく動かないと風紀委員長まで呼ばれては確実に騒ぎが大きくなる。

ひどく面倒そうな顔で頭を掻いてから、榛名は走り出した。無表情ながらもどこか楽しげな、小さな死神に向かって。





【後書き】


いや、長かったな………。

どうも、『天地連盟死神部』作者の鉤咲蓮です。長い話の後に長い後書きを置いておきます。

何ヵ月かかったんでしょう、これ。10話くらいで終えるつもりでした。
大学構内でクリスを描いた死神部ポスターを見かけた方がいるかもしれませんが、あれは割と初期に作りました。こっそり背景に文や単語を…登場前にも関わらずサルベージの名を入れたりしてました。

そのサルベージは本来、廊下ですれ違って終わるだけのはずでした。
弟のペコーもちゃんと出るはずでした。
何よりこの話は「ギャグ」のはずだったんです、が!

気付いたらシリアス入ってましたね。作者もビックリです←

しかしながら、連盟は常に生死と向き合う仕事。そこで働く人々は一人一人の命の重さを理解しているはずで。
…そう考えると、榛名に対して終始「ごめん、狩っちゃった☆」で通すわけにはいかなかったんですね。

命を扱うからには様々な取り決めもあるだろうし、必要なら道具もあるだろう……なんて考えていく内に、世界観や道具説明がゴチャっとしてしまったりもしましたが;


書ききれて良かったです。
長々とした話でしたが、ちらっとでも読んで下さった方、読破した猛者の方、ありがとうございました。

少しでも笑ったり楽しんだり、深く考えたりしていただけていたら幸いです。


また機会がありましたら、我ら藤墨倶楽部の作品を読んでやって下さいませ。
幾人かは本の後書き等にHPアドレスも載せておりますので、よろしければそちらも。……喩え、更新が亀でも……。←


最後に、この長い話を自分に代わり根気強くアップして下さり、加筆修正等も快く引き受けて下さった桝田珪赤氏。
そして執筆時に閃きを与えてくれた全ての人や物に感謝を。…スペシャルサンクスというやつですね。

皆様真に、ありがとうございました。


後書きもこれにて終了とさせていただきます。
最後の最後まで長らくお付き合い下さり、ありがとうございました。


鉤咲 蓮