03. ようこそ!私立七塚学園へ

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二人が学校に着いたとき、入学式はまだ開始していなかった。しかし、下駄箱にはすでに人の姿はなく、クラス割りの掲示だけが風に吹かれていた。

「クラス、どこだろ?」

二人は掲示板の前で必死になって自分の名前を探す。

「あ、あった!」
「お、俺も発見!」

二人の指が差していたのは、同じ列にある名前だった。一年C組。出席番号は三番と四番。

「「え?同じクラス?!」」

キーンコーンカーンコーン

二人が同時に叫んだとき、ちょうどチャイムが鳴った。二人は慌てて自分の下駄箱に靴をいれ、上履きに履き替える。そのまま教室を目指して競争するように走った。

ガララッ!

「「すみません、遅刻しました!」」

教室の扉を勢いよく開けて、二人は中に駆け込むんだ。教室にはきちんと整列した席についた生徒たちと、教卓の前に立つ若い女性がいた。その全員の目に見つめられて、二人は思わずたじろいだ。

「…伊東くんと、井上さんね?」
教卓の前にいる女性がにっこりと微笑んで、確認した。眼鏡をかけた、優しそうな女性だった。

「まだ私が自己紹介する前で良かったわ。さ、早く席について。」

女性が指差した方を見れば、そこには並んだ二つの空席がある。そこがそれぞれの席だとわかり、二人は急いで席につく。

「では改めて。皆さん、入学おめでとうございます。私はこのクラスの担任の遠山サクラです。よろしくね。」

そう言ってサクラ先生はにっこり笑った。とても教師とは思えないくらい可愛らしい笑顔だった。

「じゃあ、出席を取ります。あ、そうだ!名前を呼ばれたら、何か一言、自己紹介してね。」

私も早く皆さんのことを知りたいから、とサクラ先生は言った。もっともな話だが、アヤノはつい緊張して身構えてしまう。
もともと引っ込み思案なアヤノは自己紹介が大の苦手だ。何か一言、と言われても何を言えば良いのかわからない。

「えっと…伊東ハル君。」

いつの間にかハルの番まで順番が回ってきていた。

「はい。…伊東ハルです。南中からきました。趣味は散歩、特技は昼寝です!」

クラス中からドッと笑いが起こる。みんな冗談だと思ったようだ。しかし、当のハルはみんなの反応にきょとんとしている。どうやら本気で言っていたらしい。

「伊東君は面白いわね。さて、次は…井上アヤノさん。」

「は、はいっ。」

順番はアイウエオ順の出席番号がもとになっているので、必然的に次はアヤノの番だ。ガチガチに緊張した体をなんとか動かしてアヤノは立ち上がる。

「井上、アヤノです。に、西中出身です。えっと…趣味は…カラオケで歌うことと、ケータイで写真を撮ることです!」

よろしくお願いします!と、言った声はちょっと上擦っていた。それが恥ずかしくてアヤノは自分の顔から火がでるんじゃないかと思った。

「井上さんはとても元気があって良いですね。」

サクラ先生がニコニコしながら言った声でアヤノはハッと我に返り、ストンと椅子に座った。

「…お疲れさん。」

隣からハルが声をひそめてねぎらってくれた。アヤノはちょっと泣きそうになって、うつむいた。それを見てハルが心配そうに顔をゆがめる。

「…ごめん。ありがとう。」

アヤノはそんな気配を感じ、少しだけ顔を上げる。ハルはそれでもまだ心配そうだったが、アヤノがはにかむように見上げると安心したように微笑んだ。

「さて、これで全員終わったわね。」

サクラ先生が満足そうに微笑んだ。クラス全員の顔と名前はまだ一致していないだろうが、先生はニコニコと機嫌が良い。

「皆さん、これからよろしくね。」

ガララッ

「生徒諸君。ようこそ七塚学園へ!」