06. 鷹と閣下と蠍



「この子がお前のパートナーの『蠍』だ。」

閣下は隣にガキがいるためか、小さな声で私にやさしく紹介してくださった。閣下のお声なのになぜだろう、イライラする。なぜ、俺はこのガキとパートナーなのだろう?ガキの子守という面倒を押しつけられたのだろうか?そもそもこのガキは何だ?何故、こんなにも閣下から溺愛されている?閣下が愛しそうにガキの頭を撫でる。
何故そんなにも閣下に良くしてもらいながらも礼の一つもせず貴様は眠りこけているのだ?
俺はずっとずっとあの時からずっと閣下をお慕いしつづけていたのに。
きっと、こんなガキよりも俺のほうが閣下を慕っているはずだ。
俺の時はこんなこと言い出してもくれなかったのに、ずっと忘れられていたのに、なのに、何故お前はそんなにも羨ましいところにいる?

「…閣下…」
「この子はお前と同じ、戦争孤児なのだ。」
「は、はあ…」

なぜ閣下は俺のことを覚えてらっしゃるのだ?閣下にとっては戦場で助けたであろう数百人の子供たちの中の一人。閣下がそんないちいち、子供の顔と名前も覚えているはずもなく、俺との出会いが印象的だったなんてこともないだろう。

「閣下、なぜ俺が戦争孤児なのをご存知で?」
「我がお前が小さかった頃助けてやったろう?忘れてしまったか?」
「いいえ!もちろん覚えております。ただ、閣下は数多くの人間を救済されてきました。その数百数千の中の一人をなぜ覚えてらっしゃるのかと思いまして。」
「実際に救われた人数が数千数百だろうと、我の手ではほんの一握りしか救っていない。数十人だ。だから我はその数十人と大切な家族しか顔と名前をおぼえとらん。因みに我はこの軍にいる者たちすべてが家族だと思っている。だから間接的ではなく直接的に我の手で救えた命であり家族であるお前のことを覚えているのだよ。」
「・・・俺が、閣下と家族・・・ですか。」

つまり、『牝馬』のやつも、いけ好かない『joker』と『狂乱』も、今からパートナーになる『蠍』も家族となるのか・・・

「まあ、家族だとか、あまりそういうことを言うと、統率云々うるさいことを言われたり、偽善者だと罵られたりするがな。」
「なぜ。こんなにも寛大な閣下が偽善者なんて・・」
「いいや、我のやっていることは、偽善であるかもしれないのだ。」

その時、『蠍』は俺と閣下に背を見せるように、寝返りを打った、その時に鈍く光りを反射するものが毛布の隙間から見えた。

「閣下、『蠍』の足を少し見てもよろしいでしょうか?」
「・・・ああ。」

毛布をめくると『蠍』の胴から伸びているのは人の足とは全く異なる、鋭い金属の足だった。

「腕もそうなっている、我が見つけた『蠍』は、戦場で手足にたくさんの銃弾を浴び、酷い目にあったろうに、『蠍』は戦う戦う、ときかなかった。救出した時からずっとそうだ。だから、『鷹』、お前と違って『蠍』は親戚に引き渡さずこちらで預かった。これは、『蠍』の親族のためでもあり、戦力不足化している我が軍のためだった。」

俺としては何も言えなかった、無言になってしまったのは、閣下の口から紡がれる情報を整理し全てを受け入れるためだ。俺にとって、とても大切な人の告白をすべて、正当なものだと結びつけるために静かに閣下のお言葉に耳を傾ける。

「戦闘意欲の強い、身体に大きな損傷をおってしまった子供を保護し、特殊な義手義足をつけ、秘密裏に戦闘を行わせていた。」

閣下は身体に多大な傷を負った子供たちに手足を再び無償で与えて夢や、希望を持つ力をあたえているのだ。そのリハビリに、体をめいいっぱい動かせるであろう、戦場を提供している。きっとそうなのだ。

「この軍を独立させたときに、主要メンバーである我と先ほどあった『初音』と軍医の『閃光』で、独立する際に研究することを決めていた。とても背徳的なこととはわかっているのだ。だがしかし、手数の多さは平和への近道につながることだと思っている我らは、所詮英雄の皮を被った偽善者に過ぎない。それでもこの子や、我を家族として愛してくれるというなら、まだ家族でいてもらえるか?」
「もちろん、私はあなたのそばに来るために、ここまで来たのです。閣下にこの命尽きるまで、部下であろうと、捨て駒であろうと、裏切られようと、家族であろうと、付いて行くためにです。あなたは、俺にとって、正義以外のなにものでもないのですから。あなたが善だと思えば、全てそれが善なのです。それぐらい、俺はあなたをお慕いしております。」

それが俺の貫かなければならないことなのだ。閣下を愛し、敬い、讃え、閣下のために身を投げ出すことが・・・