09. 鷹と蠍と新しい部屋とアレな本



あの後『閃光』に言われ、新しい寮の新しい部屋の前についた。

「『たか』、開けてもいい。」

『蠍』が大きな目を輝かせ、期待のまなざしを向ける。

「良いぞ。」
「サー、イエッサー!」

蠍は器用に鉤爪でドアノブを捻る。

「ひろーい。『たか』も前にいた部屋よりひろい?」
「ああ、前の部屋は野郎六人で使う部屋でとても窮屈かつ不快だったから、快適で広いな。」
「そっか。」

しかも人口密度が明らかに違うからムサくないことが何よりも嬉しいな。だが、『蠍』との共同生活となると不安も大きい。まずは、

「幼児の些細なけがの元探しから始めないとな。」

小さな子供は些細な事で大怪我に繋がると聞いたことがある。家具の角、高所から落下の危険のあるもの、などを見極めなくては。
それから閣下から、「泣かすなよ。」と、マジな目で命令されたからな…
だがアノ凛々しくも厳しい流し目に俺は心を射抜かれてしまったかもしれない。ああ、思い出しただけでも、そこにシビレる憧れる!

「『たか』、『はつね』みたいにニヤニヤなってる。たのしい?」
「…『初音』みたいは嫌なので、できれば止めてくれ。」
「うん。『さそり』止め方しってる。『きょーらん』がね「『はつね』ー帰ってこーい。」って思いっきり叩きながら言えば、いつもどーりになるって教えてくれたもん。」

確実に戻ってこれるが、同時に飛んでいきそうだな、意識的な意味で。さて、元同室の奴らが勝手に詰めたダンボールから私物を荷解きしなくては。私物と言っても日用品と多少の私服だけだがな…

パカっ
パタンッッ!

な、何故こんな物が入ってる?餞別のつもりだろうが、俺は「俺の私物と日用品を入れといてくれ。」とヤツらに言っただけだぞ!確かに、体調管理のために多少は必要だとは思うが…

「『たか』どうしたの?」
「な、何でもない。『蠍』はちゃんと自分の物は届いていたか?」
「うん。」
「では、各自、整理整頓タイムだ。自分のは自分で出来るか?」
「できるであります、『たか』きょーかん!」
「では、解散!」
「サー、イエッサー!」

よし、『蠍』は退去させた。後はこの本をどう処理するかだ。
『蠍』の教育上、大変不適切だ。それに見られ、あまつさえ他の幹部に話すような事になれば…拳銃を使う事になるな…
とりあえず、ダンボールと一緒に捨てるのが、一番無難だろうな。

「『たか』。」
「な!なな、な何だ?」
「にもつせーりおわってたから、おとなり行ってもいい?」
「お隣?隣の部屋か?」
「うん、『ほし』と『そら』と『いかずち』のおへや。」

『星』と『空』と『雷』言えば、数少ない航空部隊のトップ3だな。こっちの寮住まいだったのか、顔を見たことがないな。彼等の内1人が迎え撃てば、必ず勝利するというジンクスもある。三者三様の凄い武勇伝が一時期、工作部隊でも話題になったな。世話になるかもしれない、挨拶ぐらいしなくてはな。

「そうだな、俺も挨拶をしに行こう。これから世話になるしな。」
「じゃあ、行こー!」