10. 鷹と蠍とフライング若者達



「『ほし』、『そら』、『いかずち』遊びに来たぞー!」

『蠍』の口振りからすると、いつも遊んでもらっているようだな、いざという時は隣に預けるのも有りだな。とりあえず、今は少しの間『蠍』は隣に預けて、元同室の奴らを絞めにいくか。

「あ、『そら』だ。」

『蠍』が指を指した、すぐ先に紫に近い黒っぽい色の光のような柱がたった。だんだん柱が太くなるにつれ、柱から吹く風圧が強くなる。

「何だこれは!」
「『そら』のワープ!」

柱は弾け、一際強い風が吹いた後、柱のあった位置に黒の短髪、鮮やかな色の空軍の服を纏った青年が『蠍』の前に立っていた。

「やぁ、可愛い小鳥ちゃん。俺に用かい?」
「『そら』、『さそり』は鳥さんじゃないよ?」
「知ってる、可愛いって意味で小鳥ちゃんって呼んだんだぜ。」

目の前にいた『蠍』の頭を撫でながらニコニコと微笑みかける。うわぁ、何だこのキザ野郎。果てしなくウザそうだな。

「『そら』ー帰ってきてー。」

ぶはッwwwニヤニヤしてるからだwwwざまぁww『蠍』gjwww
いけない、『joker』と『狂乱』の笑い方が余りにも印象に残りすぎて移った。
ドアから高笑いが?しかもどんどん音量が上がり。勢いよくドアが開いた。

「ハーッハッハッハ!『空』め、俺様の運が余りにも天に恵まれすぎてるから、ワープで棄権するか、軟弱者め!どこだ軟弱者な卑怯者は?俺様の神に愛されし運の良さを見せつけてやんよ!」

もっとウザそう、と言うか、面倒くさそうなのが来たな…

「遊びに来たよ、『ほし』。」
「お、『蠍』じゃねぇか、よく来たな。そっちのは、誰だ?」
「本日より『蠍』のパートナーになった『鷹』だ。航空部隊のトップ3の噂は聞いているがこんなに若手だったなんてな、よろしく。」
「ふん、俺たちは生まれながらに、戦闘機と大空に愛されてるからな。『蠍』は良い子だからな、苦労はしねぇと思うけど、なんかあったら、相談でも乗ってやるよ!」

少々、青臭い気がするが、さすがは航空部隊のリーダーと言ったところか、閣下には劣るが器はしっかりしているようだ。

「ただし、閣下の野郎に相談はやめとけよ?あんな老いぼれの古臭い考えなんて、俺だったら研ぎ澄まされた感性が錆び付いちまう。」
「はぁ?」

言っておくがこの「はぁ?」は、聞き直したいがための「はぁ?」ではなく、目の前の真っ赤な軍服の中二病小僧に前言撤回を要求するための「はぁ?」だ。

「それによ、いつかアノ老いぼれもお陀仏になるんだし。とっとと、俺に世代交代してくんねぇかな?」

ぶちり!

 俺の頭から切れる音がしたと?ハハハ、気のせいだろう?俺が今から真っ赤なアホを絞め殺す任務用マフラーから音がするなら話は別だがな。

「ぐぇ!てめぇ…」
「貴様、いくら航空部隊リーダーといえど、閣下に対しての冒涜は許さない!閣下への冒涜は万物平等罪深く、万死に値する!」
「『空』助けてくれ!この新入り超怖い!」
「この期に及んで何を言う!どれ、貴様に屈辱を与えてやろうか?」
「イヤァァァァッ!止めてくれ!」
「はい『蠍』ちゃんは、俺と一緒にいこうな。」
「『そら』、『ほし』が悲鳴あげてるけど大丈夫かな?」
「いつものことだろ?今日はたまたま相手が閣下とか『初音』とか『閃光』とかじゃないだけだよ。」
「そっかー。」
「二人とも、明日から左隣も人が入るんだから静かにしろよ…近所迷惑だろうって、新しいお隣さん?なんか凶暴くさい?」
「ああ、『雷』。あそこの新入りの『鷹』と、『星』が閣下の奪い愛で喧嘩してんだ。いつものヤツで止めてくんね?」
「仕方ないな、『鷹』さん離れてください!」
「ん、そぉい!」
「な、投げんじゃねぇよ、バカァァァ!」

新しく出てきた航空部隊の、たぶん『雷』と言うヤツだろう。そいつの掛け声で離す、もとい投げ捨てた。

「来たれ雲、少しだけ…ちょっとだけ落ちろ、神なる鉄槌!」

『星』の上に小さな雲ができたかとおもったら、たちまちバチリと音を立てて光り、雲は消え失せた。光が当たった『星』は若干焦げていた。

「すみません『鷹』さん。『星』が迷惑をかけてしまったようで。」
「いや、こちらも激情に身を任せていて大人気なかった。止めてもらい、感謝している。」
「『いかずち』、ピカッてのキレイ!もーいっかい見たい。」
「ゴメンな『蠍』ちょっと休憩しないともう一回できないんだ。ただ悪い奴がいたら話は別だけどね。」
「航空部隊の『雷』だな、助けてもらい感謝する。」
「いえいえこちらこそ・・・うちのリーダーが迷惑をかけてしまったようで、すみません。」
「ふん、『鷹』は入りたてだから知らないけどよ、ほんとに閣下の野郎の制限がきつくてよ、買い物制限に夜更かし禁止だとか、いつまで経っても子供扱いだ。」
「俺も買い物制限ばっかりは『星』同様反対だな、健全な男子としてはほしいものが手にいれられないからね・・・」
「『そら』のほしいものなに?『さそり』いっしょにボスにおねがいするよ?」
「いやぁ、『蠍』ちゃんの手を煩わせるほどのものでは・・・」

・・・これはおれにとってチャンスなのではなかろうか。荷造りの段ボールに入れられていた『蠍』の教育上不適切なものを処理するチャンスではなかろうか。

「済まない『雷』、少しの間『蠍』を見ててもらえるか?」
「いいですけど・・・」
「『空』こっちに来い。」
「なんだよ。」
「渡したいものがある。」

自室に連れ込み、段ボール箱を開け問題の本を『空』に差し出す。

「元同室のやつらにしてやられてな、うちには『蠍』もいるし教育上不適切で、処理に困っていたんだ。やる。」
「おおお!ラッキー!でもなんで俺なんだ?」
「そのままワープして本を『蠍』に見せないよう隠せ。いいな?くれぐれも閣下には内緒で仲良く使えよ。」
「サンキュー!」
「さて、俺は・・・」

自室からでて『空』に、出かけるからもう少し『蠍』を預かるよう言う。

「どこ行くんですか『鷹』さん?」
「ちょっと元同室の野郎どもを締め上げてくる。」