11. 鷹と蠍と水牛と看破



元同室の馬鹿野郎どもをしこたまシバいて、絞って、土下座させ、反省文を命じ帰ると『蠍』が小腹がすいたようで」、キッチンに向かうことにした。ここの寮は、共同キッチンで『蠍』に案内され、普通なら1分で到着するだろうが、一生懸命案内する様を見ていたら10分かかりついた。先客がいるようだ。ひとりはオレンジ色に近い明るい茶髪の男、エプロンをつけているという事は何かを作っているのだろう。その隣にはその料理を眺めてるであろう『狂乱』と同い年ぐらいの黒髪の子供がいる。

「あ!『すいぎゅ』と『かんぱ』だ。」
「お、『蠍』じゃん。隣のオッサン誰?」

オッサンではない、お兄さんと呼べ!

「『看破』アカンで。オッサンやのうて、オッチャンて呼びぃ。せやないと、可愛くないし、オッチャンに失礼やろ?」
「オッサンに可愛さとかいらねぇよ。」

それにどっちだろうと失礼だ。しかし、この妙な口調としゃがれた声、どこかで聞き覚えが、あるような、ないような。

「今日から『蠍』のパートナーになった『鷹』だ。」
「『たか』?…『鷹』やて?」

エプロンの男がこちらを向くと案の定知っている顔だった。しかし何だ…幹部は本当に常識人が圧倒的に貴重なのだな。

「なんだよ『水牛』知り合いなのか?」
「ワイの工作兵時代の後輩や。話してやったやろ?他の部署で顔がソックリの『牝馬』
いうヤツがおって、常識はあんけど傲慢で罵倒癖のある『鷹』ってヤツや!」
「アンタは俺をそんな風に語ってんのか?あの頃みたく、絞り上げてやろうか?」
「『たか』しぼりあげるって、なに?」
「さっき、『星』にやったやつだ。」
「イヤーってひめいあげてたやつ?」
「そうだ。」
「『さそり』もやってみたい!それで戦ってみたい!教えて?」

教えてやれば任務の効率もあがるだろうし、身を守る手段が増えるだろう。しかしこれは俺の特殊能力だから仕方がない。特殊能力はその個体にしか宿らないからな。俺の特殊能力は神経浸透と言い、無機物に自身の神経を通して自在に操る能力だ。それで常に装備しているマフラーで締め上げるというわけだ。

「あの技は特殊なのだ。『蠍』には教えられないが、他の戦術なら教えてやれる。それで我慢してはくれないか?」
「むぅ、『さそり』『たか』とおそろいがよかったのにな…」

おそろい
おそろい
おそろい!
しかし、ダメだ。特殊なのだから仕方ないだろう。
ああ、その幼児特有のプニプニの頬を膨らませてもダメだぞ!
そんな頬をプニプニして潰したいなんて衝動に俺は負けんぞ!
そのあとに、諦めたようにシュンとするな!
コッチもなんかシュンとしてしまうではないか!
そんな脅しに俺は屈しはしないぞ!

「…ダメなのか…」
「いや、やはり少しぐらいなら…」
「特殊能力なんだからムリだろオッサン。ちょっと自重しようぜ。」

子供に自重しろなど指摘をされるとは、俺は落ちたのか?どこかおかしくなったのだろうか?この常識人が少ない空間に居すぎたせいで、俺の常識が欠落してきてしまったのだろうか?
とりあえず『水牛』先輩には指摘されなくてよかった。

「てか、えげつないわー。『星』さん相手にアレやったんか…ちなみに、何番の技使ったんや?」
「1番で固めたあと、さらに癪にさわったからな、88番を使った。」
「うっわー!88番ゆうたら、いっちゃん恥ずいやつやん!写メ無いん?生でみたかったわー・・・。」
「残念ながら今は無いな、しかし『空』が写メってたみたいだぞ。」
「ほな、これ作り終わったらこれを代価に赤外線してもらうわ。」
「『すいぎゅ』きょうは、なに作ってるの?」
「んーマシュマロさんやで。」
「『水牛』のやつ、なんでか無性に作りたくなったんだってさ。」
「せや、いっつも地雷ちゃんと向き合ってばっかりやったからな、気分転換や気分転換、『看破』ジャム好きなん冷蔵庫から選び。」
「了解ー。『蠍』一緒に選ぼうぜ。」
「うん。」