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さて、サクラ先生が入学式の会場で華麗なる迷推理を披露しているころ、アヤノはこっそりと会場を抜け出してヨシノに指示された場所へと向かっていた。
「たぶん、ここ、だよね?」
疑問符付きでつぶやきつつ、アヤノはその扉を見上げた。扉の横には金属製のプレートがあり、そこにはこう書かれていた。
「理事長室…。」
厳つい木製の扉に金色のドアノブが鈍く光っている。アヤノはその威圧感に緊張し、ゴクリと生唾を飲む。
ガチャ「失礼します…。」
遠慮がちに声をかけつつ扉を開くと…。
「え?…ハル?!」
中には大きな机と来客用のソファーがあり、そのソファーにハルが座っていた。かなり疲れたようにぐったりと体を背もたれにあずけている。
「どうして?なんでここにいるの?」
アヤノはわけがわからないままハルを見つめる。
「それは僕から説明しましょう。」
そう言ったのはもちろん、机の前に座っているヨシノだった。嬉しくてたまらないという風に笑いながら彼は語り始めた。
「実は伊東くんは消えたわけじゃないのです。僕がお願いして、あたかもさらわれたかのように壇上から居なくなってもらっただけなのです。」
そう言ってヨシノが教えてくれた真相は実に単純なものだった。つまり、ハルは暗くなってからすぐに変装して教師になりすまし、犯行声明を書くとサクラ先生が注目を集めている間に会場から抜け出したのである。
「ご丁寧に暗視ゴーグルから変装用の衣装まで、全部舞台袖に用意してあったしな。」
そう言ったのはまだぐったりした様子のハルだった。どうやら二人で打ち合わせをして、今回の事件を起こしたらしい。
「へぇ…でも、なんで?なんでこんなことしたんですか?」
アヤノはそこが疑問だった。この事件の動機が良くわからなかった。
「あぁ、それは…皆さんに楽しんでいただけるようにですよ。」
「うそつけ。自分が楽しむためだろ。」
爽やかな笑顔で言ったヨシノに間髪入れずにハルが突っ込む。ヨシノは笑顔のままだったがその視線は冷ややかなものになり、ハルへと向けられる。
「…なんだよ。本当のことだろ?あんたこの学園の理事長のくせに、普通に行事参加したくないって駄々こねて、毎回サクラさんに迷惑かけてるじゃねーか。」
ヨシノの視線に気づいたハルがちょっとたじろぎつつもそう言った。アヤノはその中に聞き捨てならない事実を見つけ、驚きの声をあげる。
「えー?!ヨシノさんって…理事長だったの?!」
ヨシノはあからさまに冷たい目でハルを睨みつけつつも、頷いた。ハルもしまったという顔になり、アヤノを見る。
「え?え?どういうこと?」
アヤノは軽くパニックになりながら、二人を交互に見る。やっちまったなーとかつぶやきながらもハルが苦笑とともに説明してくれた。
「つまり、このヨシノさんは学園の理事長だけど、その立場をあまり生徒に知られたくないわけ。なんでかっていうと、生徒と身近に交流して学園の実際の空気を肌で感じたいかららしいんだけど、完全に正体不明じゃあ今度は理事長ってか学園の評判を落としかねないし、どーしようかって考えた結果が今回のこれなんだよ。余興として事件を起こして正体を明かさないまま、理事長としても入学式に関わるためにこんな茶番劇をやらかしたってこと。」
付き合わされる身にもなってほしいよなーとハルはぼやく。ヨシノは諦めたように小さく苦笑いした。
「しかたないでしょう?君は僕の従兄弟なんですから。」
ヨシノがそう言うとハルは苦虫を潰したような顔になる。そしてアヤノはその事実にまたも驚かされたのだった。